ペイルブルードットに住む人々

 僕は世界のカラフルから離脱し、白いものになりたい。ねぇベイベ、イってもいいかな、テル・ミー!コトの後の溜息のわけを、子供にひらがな教えるように教えてよ。現実味に欠ける色とりどりのライト、僕の輪郭がどんどん曖昧になっていくのが君にもわかるかな。大人びた目の女たちは馬鹿で、下卑た笑いの男たちは屑で、そんなものにノーを唱える、僕は真っ白で正しいものになりたい。

 最高の舞台を眺めるように観てよ、こましゃくれた余裕だろう。強いだけの風だろう。一体、君に何がある?両手広げて数えてみなよ、家族がいるだろ、友達もいるね、掛け替えのない恋人、セックスだけの関係、まぁなんだっていいや。学校に通っているんだっけ、仕事をしているんだっけ、学んだり稼いだりの合間にそれなりの成果を出さなくちゃならないんだろ、本当にご苦労様。鼓膜と肉声をすり合わせ、視線と網膜を絡め合わせ、舌と粘膜をぶつける方が、ずっと生産的で面白いって思うのに。ぶっ飛びそうだよ、退屈だな。でも君、その意味を深く考えちゃならないぜ。

 世界は激痛に満ちている。悲惨で冷たいものに満ちている。この絶望を乗り切るために、人は随分とタフに出来ている。存在しないゴールを目指してただ我武者羅に生きている。束の間の快楽を糧に、不可逆の歩みを強いられている。例え進み続けたその先に、一際残酷な現実が待ち伏せていたとしても。その目的は単純で、一言で表すなら「繁殖」で、くだらないだろ、だから云ったろ、意味なんか考えちゃならないんだって。否、ただ繁殖したいだけなら何でもよかったんだ、よりよい命を掛け合わせて殖えるだけ。程無く生き延びることの難度が下がり、生殖が急務でなくなると、自身の悦びのために生きるようになる、気持ちよさと心地よさを求めはじめる。高尚なる本能は野性を失い、愛は娯楽になった。これはほんの数百万年前のこと。

 もはや我々はただ繁栄するだけでなく、その先に新たなる目標を見出ださずには、滅びることさえ難しい。生々しい手触りを失い、実りを持て余し、ゆるやかに老いていくことが当たり前になる前に。これがとんでもない悲劇であるという事実を君はまだ知らない。本能のみに縋り享楽的に生きるという選択肢を僕らが永久に失ったのだということに、君はまだ気が付かない。あぁ裏を返せば、僕らは二度と動物には戻れないので、さっき「深く考えちゃならない」なんて云ったばかりだけれども、やっぱりどんなに辛くとも、考えることを止めちゃならない、歩みを止めてはならない。虚しさや淋しさが追いつけないくらい速く、速く!

 これは停止への序曲!いくら奔放に生きてみせても、心のどこかで僕は恐れている。今はまだ、景色がいいならそれでいいけど、いつかまた、細胞同士が惹かれあうような遺伝子レベルの恋がしたい。混じりっけなし、純度100%の愛で傷つけてあげる。社会に従属する汚れなき天使、その証たるブランク・オー・ブランカ。僕は僕の青くささを捨てて、極彩色のものになりたい。

[the Pale Blue Dot]