EsQuisse

きらきらひかりを放つまえの、原石に似たもの

Z軸の住人

Z(ズィー)、アルファに始まりベットに続く一連の文字記号の終(つい)となるもの、第三の未知数、世界を象徴するモチーフ、髄。Z軸、世界を構成する三本の軸のうちのひとつ、世界の奥行き、三次元を支えるもの。ズィーの領域、Zの生きる場所、或いはZを生かす場所、サフィロ、言葉というおもちゃを使った自慰の領域。詩、そして迎えるオルガスモに似たもの。

ゼロ地点

全力で生きるという非日常、腐敗してゆくA to Z / 日々を生きることよりも、溢れ出す想像力が苦しかった / 全てを形にしたいと思い続けて、けれど何一つ出来ぬまま / それでもたった一つだけ、どうしてもやりたいことがある /

アジェンダ、脊椎動物のための備忘録

思う全てを聞きたい、喪失に安堵してしまったことをどうか許してほしい。誰とでもつながりたがる大胆な手足、だからいつまでも弱いままで。この身を思って君が傷つくこと、心の底から望んでいる。朝の光に責められながら、シーツの上の肌をつい思い出していた。人間の理性が及ぶ範囲を吟味し、ひとの能力の限界を知りたい、この知がこの地に根ざすそのわけを知りたい。物理学の穴を論いたくて、投げることとか捨てることとか繰り返してみたのに、重力にも慣性にも間違いなんてなかった。何度大人になったってしくじるばかり、きっといつだって歌が下手で、子どもでいたいと泣きながら百億の夜を重ねるんだろ。小さいのだろう、華よりも、蜜みたく、風に似て、おだやかだ。

愛を笑い飛ばしながら、美しく生きろと君は言う

新しく生まれるものを全て受け入れることが愛ならば、僕の中に愛はない、恐ろしく寒いな、誰か火をくれないか。正しく生きることなど僕には出来そうにもないが、そうとも他の誰よりも、ずっとずっとそれらしく生きている。

ブランシュ

例えるなら世界は味気ないほど余白だらけ、完璧に無色のアンティークである。

強く雨の降る日に

a.この手に余る幸福 / 愛に満たない心臓のざわめき / 猥雑と可憐を織り交ぜて成る / 甘ったるい体液を啜り存える / 雁字搦めが好きだと云うなら / よりすぐりの不自由に溺れろ /

b.痛みと弱さに鍵をかけ / 夜の片隅に放り込んだ / 引き替えに手にした灯りは / 寿命を迎えてちりちり爆ぜる /

c.飼い馴らされた孤独が / 冷たい視線にさらされて / 嫌われものを自覚するとき / 遠いいつかに置き去りの / 悲しみが爆発する /

d.かすれた声で打ち立てる理想も / 汚れた目に犯される君も / からからの心には染み込まない / 単なる不健全の記号であって / それらがもたらす不自由は / 負けっぱなしの僕らにとって / ある種の甘えでなかったか /

フローレス

無色透明の愛ばかり語り本当のことを隠しているうち、今日も貴女は絶望している。 無味無臭の夢ばかり食べて普通じゃないものを素通りするうち、今日も世界は動揺している。

すいかの糖度、記憶の透明度

いつだって君、涼しい顔で、愛しあいの正しさも、なんだか上手くわからないままだ。

伸ばした腕の、その先

発火する
僕をさいなむ千の耳鳴り
枯れゆく非望のこの世界に

水没する
かなしい体の一部だね
きらりと冷たいこの宇宙は

自由落下

臆病を言い訳に未練
頭蓋への一撃
ああどうだっていいや

ヒュプノス

もう会わないと知っていたから、腑抜けども、つかの間の幸せをごちそうさまでした。祈るのがかわいそうなくらい華奢な星のキラリ、生命の不思議を体感するその日までは、記憶喪失のフレグランスをまとって踊れ。ねえなんだか、不摂生の塊のような夜だね。

本当はさ、僕より君の方がずっと夢中だった(眠りの深みにゆっくりとおちてゆく)

混乱して、薔薇

渦のまんなか、さかさまの風。いつだって本物で、強いもの、美しいひと、地上の奇跡であろうとする。いつの時代も快感で泣くため、人は必死に腰を振るんだ。

愛と死の午後

薄荷の味がする殻を脱いで
剥き出しになった肉
透きとおる目をした
青年が教えてくれたこと

汚れた声で唱える愛は
ただ浅ましいと自嘲する

ひとの身には強すぎる毒を
一息に飲みくだすその無謀を
どうか勇気と呼んでくれるな

死に急ぐ三百六十五の夜に
ままならない感覚を研ぎ澄ます
熱にほどけた砂糖のべたつき
或いは常温で芯まで柔らかい牛酪

生きるとは極めて永き独演である

赤い花

命とおなじ色をしているあれを君は孤独と名づけ、愛で捕らえる、水を与える。

ローガンベリーの定理

失われゆくものへの追想による形而上学的不安の暴発、生から死に至るまでのブランクを埋めるために、日常を少しだけ金色に輝かせるために、或いは単なる自己顕示としてのデッサン。プライドばかり育った経験値の低い大人は、誰もその顔を知らないのをいいことに、ペルソナもかぶらずにありのままを晒しますよ!不条理な愛の力学、大衆を救済する宗教のように、ひとは欲望に忠実であれ、生は自由であれ。

birth

わたしの体なんて所詮消耗品、幸せを願うことで成り立っている粗悪品。どうせ継ぎ接ぎだらけ、壊れものの肉体を砕くの、あなた。どうせ塵芥、作りものの笑顔を見抜くの、あなた。

砂糖と点滴・アルビレオ

愛の中枢。そこから君、骨髄を取り出し、今は亡き過去を癒すのだね。セカンダリー・ラヴ、まるで誰かの影のように。

青く泣く

用意された今を全うする、君の許しなく終わる世界、空の彼方で泣くあの鳥の名が好きだ。

この手の届く距離

背中にすがって静かに泣いた君を思った、濡れた指でなぞったグラスがうっすら曇るのを僕は見た。カーテンを揺らしたのが風ではないことを、僕はきっと知っていた。浮かされたような気持ちで僕はつい君の手を捉えて、たとえ二度と夢を見ることが叶わなくても、それでもいいと思っていた。

フラグメンツ

君への恋のせいだと言って、自由の限りを尽くしたい。

温度の際に立つ

躯のあらゆる関節
骨と骨の出逢うところ
細胞同士が結ばれあう
すべての箇所から容赦なく
季節が立ち昇り
熱は巣喰い
淀んで滞る
体温、体温、体温

粘度の高い液体の中を
身一つで掻き分けてゆくストレス
浮かびもせず
沈みもせず
停滞あるのみ、
停滞あるのみ!

断末魔(夏)

こんなに与えあっているのにまだ何かが足りない、気にしているだけ不自由、忘れないでほしい。低リスク低コストの新しいビジネス、お日様と同じ名前の君の横顔みつめて笑う、それだけの話だ。

グレージュ

他愛なく
翻弄される季節
過去は未来より不透明
僕は歩かなければならない

容赦なく
解体される世界
今日は昨日より不安定
僕は耐えなければならない

体の形を保つため

高く高く昇りつめていくみたいに強烈な快感がほしいんです、膣外射精じゃだめなんだ。正しくなければ生きてゆけないこの世界は本物の地獄で、一度きりの失敗が取り返しのつかない社会には本当にうんざりで、でもそこからはみ出せない自分はただの臆病者で。タブーは駆逐され、エロスは圧殺され、体液は水のように薄いものとなり、さらさら乾いたノーマルだけが残る。体が引きちぎられるみたいな凶暴な快感がほしいんです、人間の一番やわらかいところ。何も感じないくらいに愛し合って、それでも満足できないならばいっそ本当に引きちぎれてしまえばいい。痛いのは嫌いだけれどそれを享受しなければいけないシーンだってきっとあるだろう、他の誰かじゃない、ねぇ、他でもない君と。

胃と花

模範解答なんて面白くなくて、けれど本当はそれが理想って云って、生きるも活きるももううんざりだ。ため息とさようならを一緒に吐き出して、大嫌いとは言わないこれが僕なりの優しさ。本当だよ、君を嫌いなわけじゃない。求めてやまないその体の奥深いところ、生爪たてて愛してるって絶叫すること。食べるより稼ぐより必死な声で「好きにして」って言わせたい!明日の僕に、今日の君の傷を贈ろう。

傷だらけの白亜

肖像画の少女に恋をした、大理石の少年に焦がれた。ピグマリオンみたいな愛を体現してみたいと思っても、少女はやっぱり平面だし、少年はあくまで造形です。その美は本物でも、その肌は完璧なる模造品だった。晴れた空に傷つきながら、君を嫌いになりたい。それでも世界は美しいから、どうしたって諦めるのはいやだ。こんなに近くにいるのに、そんなに遠くで泣く。愛憎の渦巻く青と赤のあいだ、ひとの正しさについて話そうか。溢れ出して止まらなくなる胸の奥のざわめきが、とても不快で、痛む。そして気が付くんだよ、吐き出すべきは胃の中身でなく、臓腑でもなく、益体もない激情のキーワードであると!灯りのない中で書きなぐられる文字は、文字であっても文化の及ばぬ生理であり、人間の本音だ!本能の叫びだ!

水温

言葉を知らなくて思いを形にすることができない。光に導かれ、いつか君に会いにいく。あの日の約束を果たすために、一番正しい道を探している。楽園みたいに甘やかされて、伝えたいことずっと伝えられない。

ラルゴ

退屈を突き抜ける強烈な興奮を経験してみたくはないか / 僕に必要なのは高価でレアな愛じゃなくて、無条件に与えられる安物の憎しみ / 確実に上昇していく命のボルテージ、その速度は極めて遅く! / きっと体に悪いと知りながら、僕は君を摂取する /

泣いてる時間はないだろう、負けてばかりじゃいられない

活きるのが難しいようで、失われた夏をプレビュー。緑の誘惑、生きものたちの蠱惑、眠れないなんてことは一度だってなかった。現実はどこか遠くて、非日常が当たり前、まるで夢みたいな、あれは夢じゃなかった。陽射しを避けてばかりの今は、なんだかあの頃よりずっと迷子だ。

考えることをやめた可哀相な猿は、頚椎の上から数えて4つめ、くすぶる不満を孕んでいる。

a.僕の感情は開花する、君はとても美しいひとになる、君は君になる、僕は君を好きになる。きっとこれが、最初で最後のはじまりなのだ。近づくことにも離れることにも敏感になる、大切な距離があるだろう。ねぇ君、なにも響かせていないそのままでいい。

b.幾度とないリフレインのようにどこか似た季節を、この春だけは特別に愛しいと思う。

c.ゆっくりと回復をしている。

d.君の温度を知らないまま、僕に出来ることが減っていく。近づく希望も確かでないうちから遠ざかる心配ばかり、どうにも生きてる感じがしなくて指先をいじめていたんだ。今を今と知りながら、まだしなやかに間違っていたい。

e.何かを取りもどすように救われている、それだけ世界は愛をしらない。

I scream.

ハイブラザー、わがまますぎる僕のお姫様がはじめての弱音を吐いた記念に。

 (愛しているよ、愛しているよ、愛しているよベイベ!)

あの日、ちょっとばかり頼りない僕に縋って君は初めて泣いた。

 (残念、僕はすっかり動転していて、君の泣き言を全然覚えていない)

とにかく君を落ち着かせたくて、僕はとてもありふれた慰め方をした。

 (冷静になってよマイハニー、思いはいつだって先走るものでしょ?)

あまりに陳腐なシナリオは、それでも弱りきっていた君には効果的だったね。

 (ワット シャル アイ ドゥ?)

眠れないと疼く君をそっと抱き寄せ、僕はこう応えたのさ。

 (僕と君との間に横たわるのは壮絶なグレーゾーン、曖昧に行こうよマイラバー)

そして僕は叫んだんだ。

 (君は至上の女神!愛しているよ、愛しているよ、愛しているよマイソウル!)

君は悲しい涙を流す一頭の猛獣である

治りにくい傷だから、きっと時間が必要だった。身動きさえ罪深いから、僕は理由を求めてしまう。ねぇ膝にキスをしてほしい。あたり一面に広がる夜をかきむしりながら、ついタイミングを計りそこねて、君を置いていくことを後悔なんかしない。そしていみじくも離ればなれ、見せかけの強さに負けはしない。いびつな誇りだけで愛してた。

時は人々の聴く力がイヤホンによって痛めつけられた今、わずかな体温の差につい安心する季節

今日も君は性懲りもなく、空が愛されている国で死にたいと云う。降る雨が尊ばれ、太陽が信頼され、雷が畏敬される国へ。美しいと、正しくそのように形容される場所にて死にたいと云う。僕は息を吸った、まだ吐かずにいる。染みだらけのシャワーカーテンを見上げて「あぁ随分と遠くにきた」と思った。すぐそばに君がいるのにまるで知らない場所だと思った。君は夜が孕む失望の可能性を胸に抱いて眠る。

魂のクラリティ

「僕たちはたくさんの戦争じゃない喧嘩をしたし、優しさじゃないセックスをした」

病ではない微熱と、無駄じゃない余白、シャワーの後のローズ、白亜紀の生き物、可愛い子にタルト、いちじくのスープ。

(でもその全てが、あなたにとって益体もない塵であることをわたくしはちゃあんと知っているのです、よ!)

言葉はときどき凶暴だから、すっかり忘れてしまいたい

君と君とが明日笑うため、僕はしのんで今日泣こう。誰も悪くなくて哀しい、それに優しい、花つむ指先だけがひどい。

just as you are

ある種の依存、そして執着、重ねることさえままならない、表現できなくて、ねぇ集中して。

レジスト

いまや革命の時、立ち上がり剣を取れ愚民共!忍耐に巣食う破壊衝動に、絶対零度の火を!割れた爪と泥だらけの肌と千切れた肉を引き摺り、坂の上の城壁に侮蔑と狂騒を叩きつけよ!いざや革命の時、喜び勇め栄光の民!価値ある勝利、すぐにサバトの準備を!焦げた花と穴だらけの盾と砕けた骨を積み上げ、勝鬨の高揚と共に罪と悪夢を忘れよ!足元を駆け抜ける鼠たちをけしかけ、彼奴(きゃつ)の延髄を喰い切る!

アクラシア

優しいことならしてあげる
覚えたばかりのやりかたで
未来を思って祈る無力は
眠りに代わって夜をうちぬく

愛してやるって君は言って
心臓おさえてそっと倒れた
知りたかった夢の続きは
明日のために二度と追わない

ペリドット

君を一人にはしないよ
(それが僕に与えられた大切な役目)
だからおさらば、君が独りだった頃に戻ろう
(それが自分勝手な僕のけじめ)


ビザール

悪気に満ちた遊びのようだ
(やわらかいものを重ね、こしらえた砂糖菓子)

出来の悪いこどもが
生来の残酷をふりかざし
君の涙を欲しがるように

危険は承知で無茶をしないか
(傷つきやすい生き物の、傷つきたい本能)

鮮やかすぎるという、ただそれだけの罪で

及ばずながら
至らぬ我が身を憂い
咲きたいと疼く青虫

原色の肢体
過ぎたる我が身をいとい
溶けたいと叫ぶ毒虫

彼から彼女へ、午前3時の電話

短い睡眠時間のうち、君との明日を夢に見たよ、夢は夢、春の雨、叶わぬものへの思いの強さを突き付けられたみたいでひどくいたたまれない朝になりそうなんだ、君の声が聞きたくなった、僕の考えていることわかる?空が濡れてるってそれだけで、会いたい理由になるよ、会いたくない理由になる。水滴がはじけて飛沫、量産されるウォータークラウン踏み抜いて、灰色の朝、藤色の傘、明日の天気と、朝一番の君の姿を想像している。昨日の続きに過ぎない当たり前の月曜日、それが憂鬱なんだ、息をしたくない、君に会いたい、会いたい、君の部屋の大きめベッドの上でそれぞれ好き勝手に時間を潰しながら、飽きてシーツに体を伏せた君を、僕が後ろから抱きすくめて驚かせる、あの馬鹿馬鹿しいやり取りがすごく好き、ずっとそんな風に戯れていたい、君に会いたい、君と居たい、


ロスト

変わっていくからいらいらしてた、いつのまにか違うものになった、弱い気がしたんだ。蝉の叫び声、君の笑い声、生きてるだけできらきらしてた、それだけ命は宝石だった。忘れられないあの年に、生まれたこどもがいま死んでいく、飛べない気持ち、なけない体、全てが愛しい夏になる。

僕はいつだって昔に帰りたい。僕らにとって快感の持続は、世界の存続よりも大切だった。人類は須らくセルフィッシュな生き物で、だからとても愛しいと思う。壊れゆく星の未来のために、長く長く精を放つ僕らは、生まれない子供と、分断された大地に、いつの日かきっとどうしようもなく泣く。

飢えた僕らはいつだって、あまりに多くを食べすぎて

キスって一体なんだっけ、愛することとは別だっけ。

プレジャー

天と地を縦一直線につらぬく / 三次元の世界に奥行きが見えない / ひどく薄っぺらなデ・ナダ / ありがとう! / ありがとう! / ありがとう! / ブラボォ! / 繰り返される絶体絶命に無条件降伏 / 今はどういう形で魅せても / それは君が君である証拠だ /

Azure

目の前に広がる風に似たもの、世界に背を向け、僕と君は愛を憂える。海も空も嘘みたいに青い、馬鹿にしてるぜ、馬鹿にしてるぜ。

クラウン・クラウン

驚くほど大きな風、彼奴が僕をさらうのさ
感動的な最後だ、もう弱りきっているのさ
曖昧な温度に不安なのか?いまに熱くしてやるさ

リーヴ

生きるためにスコアを稼ぐなんて馬鹿げているだろう、僕らは自分を証明するものなしに、生きてゆける生き物だ

共鳴

僕を形作る細胞のひとつが取り消せない嘘をついた / いやなことも思い出も両手いっぱいにかき集めて廃棄 / 今日が続く限り僕はどこにも行けない / 過去にさよなら、未来なんてない /

デモニオ

この胸の中に、泣き虫の悪魔がいる
弱さ誤魔化すように、身体つらぬく背骨
こんなもののせいで、僕はまだ、これからも・・・
(僕はこわいよ、君もそうだろ)

濡れそぼる今に

流れに急く感動に似て、汚されない君の悲しみに強さを感じる。諦めきれないならもう少しだけ手伝ってあげてもいいな、立ち止まるのが癪なのは、実は僕も一緒なんだ。冷えゆく季節は非情でも、青空が雲の切れ間から会いたいと叫ぶように、この指先が重なるかぎり、君は僕の愛だろう。肺の奥にわだかまる酸素とハレルヤに恋をしながら、わけもない焦りでギラつく君と一緒に、二度と悪いことはできないな。

眼球譚

(角膜を削る手術をしたよ、視力を上げるためにさ)

そこから延々と繰り広げられた眼球譚は、久しぶりに会った二人の会話にはあまり相応しくなく、マティーニに沈んだオリーブを眺めながら聞きたい話でもなかった。僕たちが二人きりで会うのはこれが初めてではなかったにしろ、いつもは大勢で集まる場に少し離れて座るくらいの付き合いだから、触れ合うくらい肩を寄せて時々視線を絡めるのは何だか少し変だと思った。初めて二人で飲んだバーは、カウンターの向こう側で小さな鮫が泳いでいたのを覚えている。土台、あたまっから趣味の悪い男なんだ。オリーブをピンごと噛みつぶしながら、礼儀として訊ねてあげる。

(それで、わざわざ目玉を削った甲斐はあったの)
(ちっともなんだ、失敗だったぜ)
(ばかだな)

今夜はじめて、僕は微笑んだ。彼も笑った。なんだかもう、全てこれでいいんだと思った。

宵待ち

すべてを捨てる覚悟を決めろ。うすい唇に赤をのせたら、少女であるのはおしまいだ。

黙殺のディ・ダ・ダ

a.なにもかも理解した気で泣いていた。良くも悪くも君は幼い。気がつけば星は君より優しくて、僕を哀れみ今日も輝く。許すのが愛のすべてじゃないことを、きっと、知らないわけじゃなかった。君と僕、こころの作りが違うから、体重ねるだけじゃ足りない。

b.エゴという上昇気流のただ中で、僕らは世界を甘くみていた。触れた手の熱より多くを伝えたい。少しつたない僕の言葉は、いつだって君を悲しくさせるだけ。笑えているのに、愛が見えない。

月曜日の伏魔殿、何ら目的を持たぬ、単なる見栄としての性だ。

僕らの絆を確かめる術として、他のやり方じゃだめかな、何かいい案があるってわけじゃないけど。

春はうららか、情けを乞うなど今さらだ

君と僕の間に愛が生まれた。何にために?(世界を変えるために!)ねえ、僕は君に対してもっと正直でありたい、そうであらねばならない(手遅れになる前に!)この命の終わりに、美しく輝く日のために(ただそれだけのために!)

奔流

本当はどこにも行きたくなくて、自分の内面の激しい矛盾だとか、自分勝手な不平不満だとか、計画性のない酷使だとか、無気力な責任感だとか、どうでもいいんだ、どうでもいいんだ、人間関係のしがらみも、意地と見栄のせいで動けない自業自得も、勝手に押し付けられた本能も、やりたくないこと、やりたいこと、やってはいけないこと、やらねばならぬこと、超越することの出来ない欲求と、見たくなかった現実と、ようやく気付いた限界と、近々訪れそうな沸点と、他の何よりも時間を掛けて努力しているのに上手くいかない世界からの脱出、焼け付くような焦燥で、後悔と軽蔑のもどかしさで、理由のない倦怠と衝動で、泣きそうなんだ、泣いてしまいそうなんだ。

まっさらな空に(君と昇る夜)

珈琲の薫り、欲深く君を欲しがって
高揚に乗じ、身の程知らずな愛を乞う
其のためらいは当然だったのだ
空気の震えを感じ取った生き物が
確かな距離をおいて眺める焔のように
弱々しいちらつきであったはずなのだ
その頼りなさ!
然し敏い君が、或る種の不穏を感じとり
己を守るために創った優しさを、僕は評価する
盾の代わりに掲げた笑顔を、肯定し、賞賛する
好意や悪意の一切が、真に虚偽であったところで
失望なんぞしやしないのだ
なにひとつ不思議じゃないのだ
此れを迷路とひとは云い、ときに愛だと嘆くのだ

酸素欠乏と相互排除による日常の中の虚無、そして純度100%の感傷

午後8時の夢
誰もが叫びながら傷を深くし
空腹と焦躁を抱えながら
君の無力をせめる

午後11時の電車
白い影のパラーダ
呼吸困難には気付かないふりで
うつむく額にけじめのキス

午前3時の歌
まるでいつかの10月のように
生まれたくて仕方がなかった
返り咲きの花みたいだ

午前5時の君
静かすぎたせいだ
短い夢を惜しんで
僕以外の誰が君を愛するというんだ

午前10時の無意識
痛みをごまかしながら
低迷する自己
思い思いの夢をみる

午後1時の涙
うすぐもりの空の下
呼吸
遠くない未来について考えながら

24時間の命
そんな自分を悲しいと思う

点滅するカタストロフへのアラート

絡めすぎてほどけない朝だね
高みを目指してがむしゃら
笑いながら好きあう
面白がっていつしか必死
まるごと宝物なのに
手元にあると泣きたくなるのどうして

連れていってくれないか
弱くて泣けないのか
苦しいかもしれない
そんな気がする
ねぇどこでナニしようか

生きることはとても忙しいから
声をあげてる暇もない
熱帯夜だったね
せつなかったのを覚えている

白い背中のあの日
体の奥に淋しさだけ置き去り
太陽みたいな体温で
まるで君じゃなかった
ピニャコラーダ飲みほして
赤い花火は見下ろして
もっと高みを目指してめちゃくちゃ
好きのまんなかで目覚めたのに
心がずたずたなのどうして

久しぶりの幸せは
スイカの味と晴れの匂い
隅々まで愛なのに
抱きしめると泣きたくなるのどうして

君を楽しませるためにいつか僕は世界だって壊すよ

遊び飽きたと君が言うから、そんな君を楽しませるために、僕はクレジットカードを折って棄てた。おおはしゃぎの君は僕に飛びつき、接吻を浴びせる、キス、キス、キス!

はじまりの音

この恋のゆくえを、君は星にたとえた
叶わなかった僕らの愛が、いつか本物となるように

やさしさのつもりで

僕は孤独がすきじゃないから、弱音を吐くなら今だって、やさしさのつもりで言ったんだ。悲しげに太陽が沈むとき、僕は傍にいない方がいいね。やさしさのつもりで、言ったんだ。成長したい僕は運命を笑うことで、僕の嫌いな僕になる。愛すべきものを愛し、今を楽しむこと、かがやく時間を生きて、欲しがるばかりの僕が、捨てたがりの君にふさわしいとは思わない。僕は無口で、君が泣いても、苦しみをごまかすことなんか出来ない。だから抱きよせるんだよ、やさしさのつもりで。

ざわめく世界と色に溺れる

星が泣く、流れた光も悲しいせいで、心が求めるそのままを、欲しがるなんて出来ない、きっと僕の祈りなんて、宇宙の塵と同じで、風に似て、生み出さない土、さよならの海だ。